大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和59年(ネ)677号 判決 1986年7月08日

控訴人

枝光建設有限会社

右代表者代表取締役

加藤義夫

控訴人

加藤義夫

右両名訴訟代理人弁護士

倉岡雄一

被控訴人

株式会社ミクロ経理

右代表者代表取締役

鈴木啓允

右訴訟代理人弁護士

和泉芳郎

勝木江津子

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  控訴人枝光建設有限会社(以下「控訴人枝光建設」という。)は、昭和五七年五月一九日、訴外株式会社日本リース(以下「日本リース」という。)との間で、次の約定でリース契約を締結した(以下「本件リース契約」という。)。

対象物件 オフィス・コンピューター・ミロクスーパー7

リース料(月額) 一〇万九八〇〇円

リース期間 昭和五七年六月一五日から昭和六二年六月一四日まで。

リース料支払日 各月分のリース料(前月一五日から当月一四日までのリース料)を毎月二七日に支払う。

契約解除 日本リースは、控訴人枝光建設がリース料の支払を一回でも怠つたときは、催告を要しないで意思表示のみで解除できる。

解約損害金 残リース料相当額(以下「損害金」という。)を直ちに支払う。

ただし、日本リースがリース物件の返還を受けた場合は、日本リースはその選択によりリース物件を正当な基準に従つて評価するか、他に処分し、控訴人枝光建設が右損害金を支払つていない時は、その評価額又は処分代金から、評価又は売却に要した費用を控除した残金と損害金とを対当額で相殺する。

遅延損害金 年一四・六パーセント

(二)  控訴人加藤義夫(以下「控訴人加藤」という。)は、右同日、日本リースに対し、本件リース契約から生ずる債務について連帯保証することを約した。

(三)  控訴人枝光建設は昭和五八年五月以降リース料の支払をしないので、日本リースは、同控訴人に対し、昭和五八年一〇月二〇日到着の書面で本件リース契約を解除する旨の意思表示をすると共に、昭和五八年五月分から九月分までのリース料五四万九〇〇〇円及び解約損害金四八三万一二〇〇円の支払を催告した。

(四)  日本リースは、昭和五八年一〇月一七日、被控訴人に対し、本件リース契約上の賃貸人たる地位を譲渡し、控訴人枝光建設に対して昭和五八年一〇月二〇日到達の内容証明郵便をもつてその旨を通知した。

(五)  被控訴人は、昭和五八年一二月三日、控訴人枝光建設から本件リース物件を引上げ、右物件を一三〇万五〇〇〇円と評価した。そうして、被控訴人は、控訴人枝光建設に対し、昭和五八年一二月八日到達の書面をもつて、昭和五八年五月分から同年九月分までのリース料五四万九〇〇〇円及び右各月分のリース料に対する各支払期(翌月二七日)の翌日から昭和五八年一〇月二〇日までの年一四・六パーセントの割合による遅延損害金一万八五七六円並びに解約損害金四八三万一二〇〇円(以上合計五三九万八七七六円)をもつて、右評価額一三〇万五〇〇〇円とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

(六)  よつて、被控訴人は、控訴人枝光建設に対しては本件リース契約に基づく約定損害金として、控訴人加藤に対しては連帯保証債務の履行として四〇九万三七七六円及びこれに対する催告の日の翌日である昭和五八年一〇月二一日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。

2  請求原因に対する認否(控訴人ら)

全部認める。但し、請求原因(五)記載の本件リース物件の評価額一三〇万五〇〇〇円の相当性について争う。

3  抗弁(控訴人ら)

(一)  控訴人枝光建設は、日本リースと本件リース契約を締結した際、経理処理の入力等の指導は被控訴人と特約店契約を締結している訴外株式会社東邦コンピューターサービス(以下「東邦コンピューターサービス」という。)が行うものと約定された。

ところが、東邦コンピューターサービスは、控訴人枝光建設が本件リース物件であるオフィス・コンピューター・ミロクスーパー7(以下「本件コンピューター」という。)の操作をマスターするに至つていない昭和五八年二月ころ倒産し、以来右指導が行なわれなくなつたため、控訴人枝光建設は本件コンピューターによる経理処理をすることが不能となつた。

そこで、控訴人枝光建設は被控訴人に対し、本件コンピューターを引取るよう再三要請したところ、被控訴人は昭和五八年一二月二日本件コンピューターを引取つたのである。

(二)  ところで、東邦コンピューターサービスの右入力等の指導は、控訴人枝光建設のリース料支払債務に対して先給付の関係に立つものであるから、控訴人枝光建設は東邦コンピューターサービスが倒産し、右指導がなされなくなつた後である昭和五八年五月分以降のリース料の支払債務を免れるものというべきである。

(三)  仮にそうでないとしても、右の事情に照らすと、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は信義則に違反し許されないというべきである。

4  右抗弁に対する被控訴人の反論

(一)  被控訴人は、昭和五七年四月一日、東邦コンピューターサービスと特約店契約を締結したものであるところ、同社は特約店として昭和五七年四月二七日本件コンピューターの導入契約を締結すると共に、控訴人枝光建設に本件コンピューター用のプログラム(経理システム等)の提供及び右プログラムのオペレーション指導を二〇〇万円ですることを約した。

(二)  そこで、被控訴人は、昭和五七年五月ころ本件コンピューターを控訴人枝光建設に納入すると共に、東邦コンピューターサービスは、経理システム等のプログラムを納入し、控訴人枝光建設の担当者に本件コンピューターの操作方法を指導し、右担当者をして本件コンピューターの入出力操作等をマスターせしめ、もつて、控訴人枝光建設に本件コンピューターのオペレーション指導を完了した。

(三)  ところが、その後控訴人枝光建設の右担当者が同社を退職したため、同社には本件コンピューターを操作できる者がいなくなり、ために、その後の同社におけるコンピューター操作を東邦コンピューターサービスが代行することとなり、東邦コンピューターサービスは、同社にあつた本件コンピューターを自社に持込み、同社の取引データの入力及び出力等の操作を代行していた。

(四)  ところが、その後東邦コンピューターサービスは人事内紛から倒産するに至つたが、同社は控訴人枝光建設に対し、その後のアフターサービスについても同社のスタッフが万全を期すことを約し、事実、控訴人枝光建設を除く他のユーザーについては訴外リアルシステム販売株式会社(以下「リアルシステム販売」という。)がアフターサービスを行つて現在に至つているのであるが、控訴人枝光建設は東邦コンピューターサービスの倒産を奇貨として本件リース料を支払わなくなつたものである。

以上の次第で、控訴人の前記各主張はいずれも理由がないというべきである。

三  証拠<省略>

理由

一請求原因事実は、被控訴人が控訴人枝光建設から昭和五八年一二月三日本件コンピューターを引上げた際の被控訴人のその評価額一三〇万五〇〇〇円の相当性を除いて当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人の右評価額が相当であることが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二そこで、控訴人らの抗弁について検討するに、<証拠>を総合すれば、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認定に反する控訴人枝光建設代表者兼控訴人本人加藤義夫の供述部分は措信することができない。

1 東邦コンピューターサービスは、被控訴人の特約店として昭和五七年四月二七日控訴人枝光建設と本件コンピューターの導入契約を締結すると共に、そのプログラム(経理システム及び工事原価管理システムのプログラム)の提供及びオペレーション指導をすることを約したが、その際、コンピューター本体(いわゆるハード)の価格を二八八万円と、その余(いわゆるソフト料とオペレーション指導料)を二〇〇万円とする旨合意し、その後、控訴人枝光建設は、これを前記一認定のとおり日本リースからリースする方法で導入することとした。

2  そこで、東邦コンピューターサービスは、約旨に沿つて昭和五七年五月ころ本件コンピューターと経理システムのプログラムとを控訴人枝光建設に納入すると共に、そのころから同社社員蛭子壽夫を控訴人枝光建設に派遣して同建設社員枝光裕子に右プログラムのオペレーション指導をなし、同人は同年九月ころには右プログラムの操作方法をほぼマスターした。

なお、工事原価管理システムのプログラムは、控訴人枝光建設の機構、経営形態等の調査をしたうえ東邦コンピューターサービスにおいて作成するオリジナル商品であり、又経理システムの操作が軌道に乗つてから導入する予定であつたため、右蛭子において一応その調査をしたものの右時期までにそのプログラムは完成しておらず、その後も後記のとおりの控訴人枝光建設の態度により完成をみずに今日に至つている。

3  ところが、昭和五七年九月一〇日前記枝光裕子が控訴人枝光建設を退職し、同社には本件コンピューターを操作できる者がいなくなつたため、控訴人枝光建設と東邦コンピューターサービスとで、新たに本件コンピューターの操作を東邦コンピューターが月額五万円で代行する旨の契約を締結し、同年一〇月から東邦コンピューターサービスが本件コンピューターを自社に持込み、控訴人枝光建設の経理システムの入出力等の代行をしていた。

しかるところ、東邦コンピューターサービスは、昭和五八年二月ころ人事内紛から倒産し、同社社員蛭子壽夫が新たに訴外リアルシステム販売株式会社(以下「リアルシステム販売」という。)を設立し、東邦コンピューターサービスが控訴人枝光建設に負担していた一切の債務を引継ぐこととなつた。よつてリアルシステム販売はその旨控訴人枝光建設に申入れたが、同社はこれを断り、同年四月ころ東邦コンピューターサービスから本件コンピューターを引上げたうえ、前記一認定のとおり同年五月以降のリース料の支払をしなくなつた。

しかしながら、控訴人枝光建設を除く他のユーザーに対しては、リアルシステム販売において東邦コンピューターサービスの負担していた一切のアフターサービス等をなして今日に至つている。

以上のとおり認められる。

右認定事実によれば、控訴人らが主張するように、被控訴人の特約店である東邦コンピューターサービス、延いて被控訴人において本件コンピューターの入力等の指導をなさなかつたと認めることはできないし、被控訴人の控訴人らに対する本訴各請求が信義則に違反すると認めることもできない。もつとも、工事原価管理システムのプログラムの作成及びその操作方法の指導が今日までなされていないけれども、前記認定のとおり、右プログラムの作成については控訴人枝光建設の協力が得られず、その操作方法の指導についてはその段階に至らないうち、本件コンピューター引上の事態が生じた経緯に照らし、右の事由もリース料の支払債務を免れる理由とすることはできない。したがつて、控訴人ら主張の抗弁はいずれも採用することができない。

三よつて、被控訴人の控訴人らに対する本訴各請求を認容した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官新海順次 裁判官綱脇和久 裁判官萱嶋正之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例